老朽化したキュービクルを使い続けるリスク
現代の施設運営や工場・ビル管理において、キュービクル(高圧受電設備)は電力インフラの中核を担う重要な設備です。しかし、設置後に長年稼働してきたキュービクルを「まだ動いているから大丈夫」とそのまま使い続けることは、多くのリスクを内包します。
このコラムでは、老朽化したキュービクルを使い続けることの危険性と、適切な更新時期・更新計画の必要性について整理していきます。
【目次】
1. 老朽化したキュービクルを使い続ける危険性とは
1-1. キュービクルの役割と重要性
「キュービクル」とは、建物や工場などが電力会社から高圧で電気を受電するための機器一式を金属製の箱に収めたものです。受変電設備、保護装置(遮断機、開閉器、継電器など)、メーター類、制御盤などが内部に設置されます。
● キュービクルの主な役割
- 高圧電力を安全に低圧に変換して供給する
- 異常時(過電流、地絡、短絡など)を遮断する安全保護機能を提供
- 電力の分配、監視と制御をおこなう
- 電圧や力率の調整、電力品質確保の補助
そのため、キュービクルは「電力設備の心臓部」とも形容され、停電防止、安全性、および電力品質確保という面で非常に重要な位置を占めます。
1-2. なぜ老朽化すると危険なのか?劣化のメカニズム
時間と共に、キュービクルの内部機器や絶縁材料、接続部、構造物そのものはさまざまな劣化を受けます。具体的には以下のようなメカニズムが進行します。
| 劣化対象 | 劣化メカニズム | 危険性・影響 |
|---|---|---|
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絶縁材料 (ケーブル被覆、絶縁油、樹脂絶縁部など)
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経年による硬化・ひび割れ、絶縁耐力低下、吸湿・汚染 |
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| 接点・端子 | 緩み、腐食、酸化、摩耗、スパーク痕 |
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機械開閉器 (遮断器・開閉器など)
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摩耗、バネの疲労、可動部のガタ、接触部の劣化 |
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| 継電器・保護リレー | 内部部品の経年劣化、誤動作率の上昇 |
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| 構造体・外装 | 腐食、劣化、密閉性の低下、パッキンの劣化 |
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絶縁油 (変圧器内部)
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酸化、分解、水分侵入、劣化 |
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こうした複合的な劣化が進むと、キュービクル内部やその周辺で異常現象が発生しやすくなります。時には小さな不具合が引き金となって、大規模な事故や停電に発展することもあります。
実際、キュービクルは10~15年程度で主要部品の交換が検討されるべきとされることが多く、20~30年を超えて稼働しているものは、故障リスクが著しく高まると指摘されています。
2. 老朽化したキュービクルが引き起こす具体的な電気事故リスク
老朽化したキュービクルを使い続けることで、実際どのような事故リスクが現実化するのか、以下で具体的に見ていきましょう。
2-1. 予期せぬ停電による事業停止
キュービクルが突然故障すれば、施設全体に電力が供給されなくなり、停電事故が発生します。工場においては生産ラインが即座に停止し、機会損失が甚大になります。オフィスビルではシステムがダウンし、データ消失や業務停止が起こり得ます。病院などの重要施設では、生命維持装置や手術室機器の停止という事態も考えられ、まさに「許されない停電」となり得ます。
さらにキュービクル本体を更新しようとしても、設計・制作・施工に時間がかかることが多く新設の場合、設置までに最低3ヵ月以上かかります。故障発生後にあわてて手配しても長期間の停電を余儀なくされるリスクが高いです。
特に夏の冷房や冬の暖房などの電力需要のピーク期に故障が発生すれば、負荷が高い状態で再起動できず、復旧にも時間を要する可能性があります。
2-2. 火災や爆発事故の発生原因
老朽化による絶縁不良や部分放電・接点の発熱、スパーク発生などは、火花や高温を引き起こし、周囲の可燃物に引火して火災を誘発するリスクがあります。
特に変圧器内部の絶縁湯が劣化してガスを発生させ、密閉空間で圧力が上昇した場合には、油漏れ+引火、さらには爆発に至る可能性も否定できません。加えて、劣化した遮断機や開閉器が過熱・アーク発生を経て火花を放出し、外部への延焼拡大を引き起こすケースもあります。
火災事故が広がると、キュービクル本体のみならず建屋、隣接設備、配線、制御系統など多方面に被害が及び、復旧コストや損害賠償負担が膨らむ可能性があります。
2-3. 感電事故による人命の危険
キュービクルは高圧電力を扱う設備であるため、万一の絶縁破壊や漏電が発生すれば、感電事故リスクは極めて高くなります。特に、設備の外装や扉カバー、操作盤の金属部に異常電圧が乗るような事態が発生した場合、作業者や立ち入った人が電流経路となる可能性があります。
こうした感電事故は、通常の低圧電気設備以上に致死率が高く、感電による重傷・死亡事故につながることがあります。老朽化に伴う不具合は、作業現場で見えづらい場所に潜んでいることも多く、点検者・修理者が気づきにくい箇所で発生事故が起こるリスクもあります。
2-4. 周辺設備への波及事故
老朽化キュービクルの事故は、施設内にとどまりません。高圧受電設備という性格上、トラブルが電力会社側の系統に影響を与えたり、同じ配電ルートを共有する他施設へ連鎖的に停電や過電流が波及する「波及事故」が発生したりする可能性があります。
これにより、近隣ビルや地域全体で停電が広がったり、電力品質が変動して他の事業者の機器にも異常が発生したりという二次被害が生じます。もし周辺施設に損害を与えたと判断されれば、損害賠償責任を問われるリスクも出てきます。
また、波及事故が発生すると電力会社や監督官庁からの調査・行政指導・処分を招く可能性もあります。キュービクル設備の管理責任者・設置者には、法令上「保安を確保する義務」が科せられており、保守・更新を怠った結果として重大事故を招いた場合、法的責任を問われることもあります。
3. キュービクルの適切な更新時期と計画の重要性
キュービクルの老朽化リスクを抑えるためには、ただ闇雲に交換すればよいというわけではなく、適切なタイミングと戦略的な計画が不可欠です。
3-1. 主要機器の耐用年数と交換の目安
キュービクルを構成する各種機器には、それぞれ一般的な寿命・更新目安があります。多くのキュービクル設備では、法定耐用年数として15年が会計上・償却上の目安とされることがありますが、実務的には20年前後まで稼働させるケースも見られます。ただし、20年を超えて使用する場合は、非常に慎重なモニタリングと保全が求められます。
3-2. 計画的な更新によるメリット
キュービクルの更新をあわてて実施するのではなく、計画的・段階的に行うことには複数のメリットがあります。
- 経済性・コスト制御
緊急交換に比べ、発注・設計・工事を余裕をもって行うことでコスト上の無駄を減らせます。 - 事業継続性の確保
計画更新であれば、稼働率を落とさないような工事スケジュールの調整が可能です。一時的な停止を必要最低限に抑えることができます。 - 電力品質改善・省エネ効果
最新のキュービクル設備は、高効率・低損失設計、最新制御・モニタリング機能を備えており、省エネや電力品質向上を通じて運転コスト低減が期待できます。 - 信用保全・法令適合
老朽化を理由に事故を起こせば、企業・施設の信用が毀損するだけでなく、法令席責任を問われる可能性もあります。計画的に更新しているという姿勢は、万一の事故リスクを軽減でき、リスクマネジメント上も有益です。
4. 古いキュービクルは早めに入れ替えを!
老朽化したキュービクルを「まだ動いているから」という理由で使い続けることは、安全性・信頼性・事業継続性という観点から、多くのリスクを孕んでいます。具体的には予期せぬ停電、火災・爆発事故、感電、波及事故、さらには法的責任や信頼失墜といった多面的なリスクが存在します。
適切なタイミングで、計画的・段階的に更新を進めることこそが最も現実的なアプローチです。ネクシーズZEROではお客様の保安状況を元に無料でキュービクルに関する現地調査・相談を承っていますので、もし古いキュービクルを今も使用し続けているようなら、お気軽にネクシーズへご相談ください!
監修・執筆
株式会社(株)NEXYZ. 業務本部
最新の業務用設備を導入できる「ネクシーズZERO」サービスを販売しています。このコラムでは、業務用設備に関するさまざまな情報を発信していきます。

